部活やプロスポーツの現場において、繰り返される体罰やパワハラ。
世間的な関心も高く「もう体罰の時代じゃない」と言われて久しい中でも、このような「行き過ぎた指導」は繰り返されています。
では、なぜ体罰は無くなることはないのでしょうか。
今回はスポーツの現場で体罰が繰り返される理由について解説していきます。
体罰に教育的効果は薄いと考えられている
スポーツや教育の現場で暴力や暴言を介した「体罰」と呼ばれる手法は、以前に比べると減少傾向にあると言われていますが、それでも頻繁にニュースなどで体罰やパワハラ問題が取り上げられることが少なくありません。
いくら「もう体罰の時代じゃない」「体罰じゃ成長しない」と言われている中でも、過去の成功体験を引きずる指導者も数多くいるはずです。
では、まず最初に体罰に関する教育的効果のエビデンスを見ていきましょう。
体罰と操作性運動、言語・社会性の発達について
約2,000名の0歳から6歳までの子供を調査したところ、体罰を受けている子供は受けていない子供と比較して、操作性運動の発達や言語・社会性の発達に遅れが生じていることが分かっています。
操作性運動とは、例えば「靴紐を結ぶ」といった日常生活における動作が挙げられますが、スポーツにおけるパフォーマンスについても悪影響が及ぶことは十分に考えられるでしょう。
さらに、青年期の部活動やスポーツ活動は心の成長にも影響を及ぼすと言われている中で、体罰が社会性の発達に遅れを生じさせるのは明確なマイナス要因と言えます。
体罰に関する有害な結果について
約16万人の子供たちに関する研究を分析したところ、体罰によって以下の有害な結果をもたらす可能性があることが明らかとなっています。
- 低い規範の内面化
- 攻撃性
- 反社会的行動
- 外在化問題行動
- 内在化問題行動
- 心の健康問題
- 否定的な親子関係
- 認知能力障害
- 低い自己肯定感
体罰によって上記のような悪影響を生み出すことが科学的に立証されています。
個別の事例によって体罰が表面的な好影響を生み出す可能性は否定できませんが、それでもこういった結果が明らかになっている以上、体罰を肯定することはできません。
体罰がなくならない理由は?
現在でも指導者の間で体罰に対する意見が分かれる理由の1つに「短期的には結果が出やすい」ことが挙げられます。
選手たちに恐怖を押し付け、反発するような心を持たせた状態にすることで、いつも以上のパフォーマンスを発揮するといった考え方もあります。
しかし、これは「ブラックパワー」と呼ばれており、短期的な結果が得られる一方で、長期的な成長という観点ではマイナス面が大きいと指摘されています。
日本のジュニアスポーツの多くがトーナメント性で、結果を重視する文化であることも関連しているかもしれません。
短期的な結果を追い求めるばかりに、指導者の中でも体罰を肯定してしまっている背景があると言えるでしょう。
また、体罰が問題化した際、「再発防止に務めます」という言葉はよく聞きますが、具体的になにをしているのか明らかではありません。
プロスポーツであれば再発防止プログラムを用意して、それらを経てから指導者として復帰するというプロセスを踏むでしょう。
しかし、「体罰はするな」と指導されて頭で理解していたとしても、行動が変わらない指導者も多くいるのが現実です。
まとめ
日本のスポーツの現場で体罰が無くならない理由として、短期的な結果を追い求める構造になっている点は大きな影響を及ぼしていると考えられます。
スポーツにおける教育的効果や青年期の心身の成長を求めるのであれば、指導者の意識改革だけでなく、スポーツ界全体においての見直しが必要かもしれません。